渡辺動物病院

獣医師によるコラム

ノミ、ダニ対策は万全ですか?

 新緑の季節を迎え鮮やかな緑のあふれる今日この頃、朝晩の日が長くなったことも手伝っていつもよりお散歩の距離が長くなったり、外出する機会が増えたという方も多いのではないでしょうか?
 近頃はそんなみなさんのライフスタイルも反映してか、ノミやダニをつけて診察室にやってくるネコちゃん、ワンちゃんが増えてきました。
 実はノミ、ダニが寄生すると、その被害は吸血のみではありません。「皮膚病みたいで…。」という子も診察をしてみると、ノミ寄生によって起こるアレルギーが原因でした。なんてことも少なくありません。その他にもノミ、ダニが媒介する病気に感染する危険はネコちゃん、ワンちゃんだけでなく人にも及びます。
 そこで、ワンちゃん、ネコちゃんはもちろん、飼い主さんにも健康な日々を送っていただくために、今回のコラムではノミとダニについて取り上げたいと思います。


<ノミ>

 ノミは体長1~9㎜の小さな昆虫で成虫になると哺乳類などの恒温動物に寄生して吸血します。犬や猫もその寄生の対象です。ノミは草むらなどで近くを通る動物を待っていてその気配を察知するとジャンプして体にくっつきます。
 ノミは犬や猫の体に寄生すると24時間から48時間の間に卵を生むことがわかっています。この卵が家の中や動物の寝床に落ちて孵化すると、幼虫、さなぎの順に成長して成虫になります。一日にノミが生む卵の数は20個から50個です。この虫卵がまた卵を産むまでに成長するのに要する時間は環境中の湿度や温度によって異なるものの、最短で2週間、最長でも6か月と言われています。ノミの寄生に気づかずに繁殖が始まると最初の寄生は少数でもあっという間に増えてしまいます。更に、あたたかく、湿気のある梅雨から夏にかけてのこの時期はノミにとっては繁殖しやすい季節にあたりますから、この時期の寄生には特に注意したいものです。
ネコノミの成虫
ノミが寄生すると…

・ノミアレルギーによる皮膚炎
 吸血時にノミの唾液と接触することでアレルギー反応がおこり、皮膚のかゆみ、湿疹が見られたりひどくなると皮膚が赤くなり脱毛が起こることがあります。

・瓜実(ウリザネ)条虫の寄生
  ノミは瓜実条虫を媒介することでも知られています。瓜実条虫はノミの体内に幼虫として存在することがあるため、犬や猫が自分の体をグルーミングする時に誤ってノミを飲み込んでしまうのと同時に体内に瓜実条虫が侵入し、感染が成立します。 瓜実条虫は一般にサナダムシと呼ばれる、白く長い寄生虫です。犬、猫の消化管に寄生し、おしりの周りに瓜の実に似た片節と呼ばれる虫体の一部が付着していることで発見されることが多いです。無症状のこともありますが、下痢や嘔吐を起こすことがあります。
  
<マダニ>

 マダニは草むらなどの枝や葉のさきに止まって近くを通る動物を待ち、寄生の機会を狙っています。マダニは卵から孵化した幼ダニ、若ダニ、成ダニのそれぞれの成長過程において吸血を必要とします。吸血するとその体は血液で膨らみ、吸血前の体重の何十倍にもなります。そして、動物の体に寄生して十分な量を吸血したマダニは自然に落下し、地上で脱皮して成長します。このため、特に子犬や子猫ではマダニの多数寄生をうけた場合、貧血を起こす危険があります。成ダニの吸血時間は数日から1週間にも及び、この吸血の間にマダニが唾液の分泌を行うことにより様々な病気を媒介します。
これらの病気が動物はもちろん人にも健康被害を起こすのです。
実際に動物に寄生していた多数のマダニ
マダニの媒介する病気

・犬のバベシア症
 バベシアというのは赤血球に寄生する原虫の一種で、感染すると発熱、溶血性の貧血を呈して犬は死に至ることもあります。犬がマダニに吸血されてから感染が成立するまでに2-3日が必要とされていますが、一度感染が成立すると、犬の体内からこの原虫を完全に駆除する方法はありません。マダニの駆除が、最も効果的な予防法となります。

・ライム病
 マダニは成長の段階で何回かの吸血を必要としますが、吸血する動物は哺乳類や鳥類と広域にわたります。この中でライム病の原因となるボレリアという細菌に感染した動物を吸血していると犬や人を吸血した際にこれがうつり、症状がでることがあります。犬では発熱、食欲不振や神経症状、人では遊走性紅斑と呼ばれるマダニの咬傷部位から広がる皮膚症状が初期にみられ、その他インフルエンザ様の筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱などが見られることが知られています。
 
・リケッチア感染症
 リケッチアはグラム陰性の小型微生物です。節足動物に寄って媒介されることが多く、感染すると発熱、発疹、血液細胞の異常などの症状を起こすことがあります。宿主は哺乳動物のため、人、動物同様に感染の危険があります。

 このようにノミ、ダニの寄生は様々な健康被害を及ぼすことがあります。以前にこのコラムで紹介したフィラリア症同様、予防することが可能ですので感染前の早めの対策をおすすめします。
 また、近年はドックラン、動物同伴可のカフェ、ペットホテルなど不特定多数の動物の集まる場所でのマナーとしてこれらの予防を必要とすることも増えていますね。
お家のネコちゃん、ワンちゃんに寄生している場合はもちろん、今年はまだ予防を始めていないという方も是非一度来院にてご相談ください。現在はノミ、ダニの予防、駆除に有効なお薬が複数あります。皮膚につけるスポットタイプ、おやつのように食べるチュアブルタイプなどがありますのでそれぞれにあったお薬を紹介します。

 これらを上手に利用して、ノミ、ダニ寄生が特に増加する春から秋にかけてのこの季節を人も動物も快適に乗り切りましょう。
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