意識が残っていて体が動かないとか、体の部分的なけいれんだけが起きている場合などが想定できます。この場合のてんかん発作は脳の一部分にショートが起こっていることが予想されます。
この焦点発作の電気的ショートの機序としては脳の表面のショート回路周辺のみの電気的興奮が考えられます。
てんかんというのは病気の名前で、その症状がてんかん発作ということになります。
近年画像診断の進歩からてんかんと思われていた例が脳炎に起因していたり、てんかん発作ではなく頸部痛により動けなくなっていたりとか、そういう子達が多くわかってきています。また、高齢犬では脳腫瘍と脳梗塞が多いです。脳腫瘍は手術という次の方法がありますし、脳梗塞は対症療法と再発防止で復帰できる子たちが多くいます。
一般的な意味で発作という場合には、急に起きる何らかの症状のことを意味します。例えば、喘息の発作や心臓発作、あるいは失神発作などそれぞれ原因が異なります。
普段は普通に生活しているのに、脳内の神経回路がショートしているために突然発作が起きる病気です。犬ではおよそ100頭に1頭(0.55-2.3%)、猫では100頭に1頭以下(0.3-1.0%)の発生率です。
てんかんとは慢性の脳の病気であり、てんかん発作は繰り返し起こります。 →次章参照
てんかん発作の頻度がおよそ月に1回以上起こるならば治療の必要が出てきます。もしも、治療をしなかった場合には寿命を全うできない事態になる可能性が出てきます。
脳の中では、規則正しいリズムの電気が微量に流れています。正常な神経細胞は電気的ショートを起こしている神経回路に対して、それが広がらないように抑えているのです。しかし、体調や環境の変化などによってついに電気的ショートが周囲の神経回路に広がってしまうことがあります。この時に「てんかん発作」が起きるわけです。
てんかんという病気の定義の重要なことは「発作」が繰り返し起きるということです。従って1回だけの発作でてんかんを疑うことはできますが、てんかんの診断はできません。
繰り返し起こる発作の間隔は個体によって違いがあり、毎日起こす動物もいれば、1年に1度という場合もあります。発作は自然に治まりますが、慢性の脳の病気ということからこの発作の頻度は進行していく可能性があります。そして、発作が止まらなくなるような状態=てんかん重積(重延)状態になった場合には、早急な処置を行う必要があります。
てんかんのワンちゃんが起こす発作は、毎回同じであることが多いのです。「発作」の種類はいくつかあって、どういう発作を起こすかは、動物によって様々です。これは、電気的ショートが脳のどの部分にあるのかということで、変わってくるわけです。つまり、ショートの場所が左前足の運動に関係している脳にある場合には、その動物が起こす発作の型は左前足のけいれんやツッパリというほぼ決まった形で発現してきます。
「発作」の種類については、人ではよく研究されていて分類もきちんと行われています。ペットと私たちの間には会話が成立しないため主観的な(家族の)判断に頼らざるを得ませんが、家族の方が詳細な観察をしている場合にはそれがどんな発作なのかを決定できる場合もあります。
発作の種類を見分ける重要な点は、
〇 意識が残っているかどうか?
〇 全身のけいれんを起こしているのかどうか?
また、発作の後の状況をしっかり観察することも重要です。最近ではスマホの動画撮影をすることで私たちが状況を判断することが可能となっています。
意識があるのかどうかを見分けるには、動物の様子がおかしいなと気づいた時点ですぐに声をかけてください。こちらを振り返るのか、あなたの目を見てくれるのかを確認します。そして、その後の発作の状態によっては常に声をかけて行く必要があります。意識の有無は、発作の型を見分けるのに非常に重要なことなのです。また、てんかん性発作と非てんかん性発作との鑑別にも役立ちます。
てんかんの原因に関係する発作という言葉には様々な分類がありますのでリンク先で説明します。→★リンク
さて、発作の症状にはおおまかに二つあります。部分的な筋肉のけいれんやひきつけや全身的な大きなけいれんがそれです。ではこの発作症状を説明します。
意識が残っていて体が動かないとか、体の部分的なけいれんだけが起きている場合などが想定できます。この場合のてんかん発作は脳の一部分にショートが起こっていることが予想されます。
この焦点発作の電気的ショートの機序としては脳の表面のショート回路周辺のみの電気的興奮が考えられます。
全身がけいれんする場合には意識はありません。この場合の全身けいれんとは激しいけいれんをさしています。体が震えているのとはまったく別ですので注意してください。
全身けいれんにはおおよそ3つのパターンがあります。☆発作の臨床分類
1つ目のパターンは、突然気を失いバタンと倒れ、それから体をのけぞらす様にぎゅーっと突っ張ります(強直けいれん)。この時に奇声を発することがありますが、苦しいために起こるわけではありません。それから四肢(手足)を激しくけいれんさせる状態がしばらく続きます。四肢の激しいけいれんとは、縮んで伸びるという速い運動を繰り返すことです(間代けいれん)。 この発作(強直間代発作)は、あまりに激しく見えるので、てんかんの発作というと、こういうものだと一般には思われています。
2つ目と3つ目のパターンは強直発作と間代発作にそれぞれ分けられます。強直発作は上述の体をのけぞらしたり、ぎゅーっと四肢を伸ばすだけのけいれんです。間代発作は、上述の間代けいれんだけを起こすけいれんです。
以上の3つである強直間代発作、強直発作、そして間代発作は全般発作という発作型に分類されます。
全般発作が起こる電気的ショートの機序としては、
脳の中心の奥深くにショート回路があってここから両方の脳へショートが広がる場合(全般てんかん)
脳のあちこちにあるショート回路から脳全体にショートが広がる場合(症候性全般てんかん)
脳の表面にあるショート回路から中心に向かってから脳全体にショートが広がる場合(部分発作の二次性全般化)
があります。
このような全身性のけいれん自体の持続時間は2~3分程度です。ところが、この後動物が正常と思われる状態になるまでに時間がかかる場合があります。もちろん数分で何事もなかったようにしている場合もあるし、1時間以上ふらふらしていることもあります。あるいは、長い場合には数日ボーッとしていたり、半日以上目が見えない状態になったり、腰が抜けたような状態になったり、またそのままぐっすり寝てしまう場合などと程度は様々です。この状態を発作後もうろう状態(後発作)といいます。
ではどうしてこのような状態になるのでしょうか? 脳の神経細胞は、電気的ショートを数分間も起こし、その興奮を筋肉に伝えているわけです。この状態が強ければ強いほど神経細胞は疲れ果ててしまいます(これを神経細胞の疲弊状態と言います)。よって発作後のもうろう状態が長く続く場合は、それだけ神経細胞が疲れてしまっているということがわかります。また、抗てんかん薬はこの発作後もうろう状態の長さから改善していきます。
突然の発作に家族の方は驚いてしまうでしょう。苦しそうに見えるし、全身けいれんはあなたとペットの絆を引き裂くようなショックをあたえるかもしれません。しかし全身けいれんを起こしている時は意識が無いので苦しいとかつらいという感覚はありません。だから冷静になって、注意深く見守ることが大事なことです。
また体をおさえたり、ゆすったり、口の中へものをいれたりもしないでください。噛まれてしまっては大変ですから。
落ち着いて近くに危険なものがないかどうか、あるいは落下するような危険な場所でないかを確認しましょう。
そして以下の発作の状況をよく観察してください。
この発作状況の観察は、動物のてんかん発作の型を決める上で非常に重要です。また発作の強さもわかります。ペットに発作が起きた場合には、上述の項目についてあらかじめメモをとっったり、発作の状況を記すノートを作りましょう。私たちにとって治療方針を決定する上で重要なデータとなります。また、スマホによる動画撮影も重要な証拠となります。
けいれんが10分以上続いたり、意識が戻らないうちに次の発作を起こすのを繰り返している場合には速やかに病院へ連れて行く必要があります。これは 【てんかん重積状態|てんかん発作の中で一番危険な状態】 と言って命にかかわる重大な状態だからです。また治療が遅れると後遺症が残ることがあります。
てんかんには多くの場合脳に電気的ショートを起こしてしまうような原因があるわけで、脳の神経細胞を壊すような状態が過去にあったということになります。
だから脳を傷つけるものすべてが原因になります。例えば、難産による低酸素症、赤ちゃんの時やまだ脳がしっかり固まっていない幼い時に、何等かの力で脳のどこかが傷ついて、それがてんかんになってあらわれる場合もあります。同様に、ウイルスによる病変が引き金になったり、脳腫瘍の最初の症状がてんかん発作だったりすることもあります。交通事故で脳が傷ついた後にてんかん発作(外傷てんかん)が現れる場合もあります。そしてまったく原因がわからない場合もあるのです。犬では原発性(特発性)てんかんとして遺伝が関与している犬種も報告されています。
→★犬と猫の年齢別発作原因
てんかんを診断するための検査というのはありません。てんかん以外の病気を除外するためにいろいろな検査を行う必要があります。人では脳波検査なくして、てんかんの診断を行えませんが、それでも確定するには種々の検査が必要となります。動物にも脳波検査を行うことは可能ですが、一般的には普及していないのが現状です。
では、てんかん以外の病気を除外するとはどういうことなのでしょうか。これはてんかん発作と同じような症状を引き起こす他の病気を持っているかどうかを調べるわけです。
以下に、てんかんではないが同じような発作を引き起こす可能性のある病気を挙げておきます。 →動物が再発性発作で来院した場合の原因別分類
以上のような様々な疾患を診断するのはなかなか大変なことです。
しかし、てんかんでは発作以外の神経症状は認められません。そうです、てんかんの症状はてんかん発作のわけですから。他の神経学的症状が認められるということは、てんかんではなく何らかの進行性脳疾患を持っている可能性が高くなります。
脳内疾患の検査には、脳波検査、脳脊髄液検査、さらにCT or MRI検査があります。すべて一般的ではありませんが、それぞれの検査は非常に重要です。現在大学病院では今まで主流のCT検査からMRI検査へと設備が整ってきましたので目に見えない脳を詳細に探ることができます。また、CTやMRIで異常が認められなくても脳波検査において異常を観察できる場合もあります。これらの検査の組み合わせで、てんかん診断の精度が上がるわけです。
脳腫瘍があれば外科的治療を考えることができますし、まったく異常が無ければてんかんの治療に専念するわけです。
治療を開始した当初は、発作の頻度がどうなのかということと初期において認められる抗てんかん薬の副作用がみられるかどうかということに重点をおきます。いつもと変わった様子がないかどうかよく見守ってあげてください。大型犬では特にこの初期の副作用が多く認められます。開始量は一般的に一番少ない薬用量を使うのですが、この量を用いても副作用が認められることがあります。個体感受性により差があるので試してみないとわかりませんし、大型犬だけでなく小型犬でもみられることがあります。主治医の先生に必ず報告してください。日常生活にそれほど支障をきたすことがなければ、そのまま継続するでしょう。あるいは、生活の質を維持できない状態ならば一時的に休薬することもあります。この初期副作用は2週間程度で自然に消失します。
開始して2週間~3週間で1回目の検査をします。これは服用している抗てんかん薬の血液中の濃度がどの程度上昇したかを調べます。今後長期に渡って飲ませていかなければならない薬の血中濃度を測定するということは、薬の効き具合、安全な濃度なのか、薬剤耐性(薬の効果が低下してしまう)が出ていないかなどの非常に重要な意味を持ってきます。もちろん1回で終わりになることはありません。
そして血中濃度と発作の頻度を評価しながら抗てんかん薬の用量を調整していきます。また、抗てんかん薬の体に対する副作用を調べるために血液検査も同時に行っていくのが安心です。この場合、使用する抗てんかん薬にもよりますが、最低でも3カ月、6カ月、12カ月、その後は6~12カ月間隔で血液検査をしてもらうのがいいでしょう。
血中濃度が安定していて発作頻度も3カ月に1回未満ならかなり優秀です。
動物のてんかんの診断における脳波検査は、脳内疾患を除外してんかんに認められる異常な脳波を観察するという意義があります。人と違って動物はじっとしていてくれませんので判読可能な脳波を測定するためには鎮静剤が必要となります。
脳波測定によってショート回路を見つけたり、その断片を発見できる場合があります。ショートの断片の種類や出方によってはてんかん源焦点の部位が確認できたり、あるいは部分発作や全般発作などの発作型の分類に役立つこともあります。左右の脳に乱れがみつかった場合には、どちらかの脳に傷があったり脳以外の構造物がある可能性が予測できる場合もあります。
長期に渡る治療中も脳波検査を行うことで、ショート断片が消えたかとか薬を中止していく上での重要なモニターとして有用です。
現在のところてんかんは薬による治療がほとんどです。原因がはっきりしている構造性てんかんの場合には原因に適した治療が必要となります。
ワンちゃんネコちゃんに使える抗てんかん薬は人間で使われているものですが、人ほど多い種類は使えません。これらの中から副作用が少なくて効果のある抗てんかん薬を使っていくことになります。 →★リンク【犬と猫の抗てんかん薬】
もちろん薬には、その副作用や毒性はつきものです。それぞれの動物によって個体感受性が違うため副作用が強くでてしまう場合もあれば、まったく問題ない場合もあるのです。始めて抗てんかん薬を飲んで、副作用が出てしまい歩けなくなってしまったりした時に、それ以降の治療に対して家族の方が強い拒否反応を示してしまう場合があります。しかし副作用は一過性です、しばらく薬を休んで再び少ない用量から始めればいいわけです。1回の副作用で尻込みすることはありません。薬を飲まないでいて発作の頻度が進行してしまってからでは取り返しのつかないことになるかもしれないのです。
てんかんは長期に薬を飲んでいかなければいけないので、副作用や毒性を最低限にしていくためには、まずお薬を飲んでみてその子にとって薬がどうなのか(効いているのか、副作用は)と言うことを判断していく必要があるわけです。
それには、定期的に血液検査と血中濃度の測定をしながら健康診断を合わせてやっていくことです。ある抗てんかん薬には、どうしても肝酵素が上昇するという紛らわしい問題が発生します。定期的にこれらの値をチェックしていくことで取り返しのつかない状態を回避することができます。
このように家族の方が動物を看護することで何年間も薬を飲みながら健康にしている子達はたくさんいるのです。
てんかん治療の目標はQuality of life (QOL)「生活の質」の向上です。
苦しそうな発作をみるのは家族にとってどんなに苦痛なことか私たちは想像できます。残念ながら治療はその回数を減らすだけかもしれません。しかし、てんかんを担う子達と家族の生活の質はより良くなれると信じています。
抗てんかん薬による治療でおよそ70-90 %の発作を抑えることができます。中にはお薬を中止できた例(構造性てんかんの場合)もあります。
最初の目標は、現在の発作頻度を50 %減少させることです。これが可能であれば、もっと減少させ、最終目標は発作がなくなることです。実際には発作がなくなった例を考えると数年かかっていますのであわてないでじっくり構えていきましょう。
あなたにペットの生活の質の向上を目指す意思がないのなら仕方ないことです。ただ、てんかんという病気の本質を言い表した格言があります。
「今回の発作は前回の発作の結果であり、次の発作の原因となる」
すなわちてんかん発作は進行していく可能性があるわけです。発作自体が進行してからでは抗てんかん薬の効果が期待できないこともあります。
抗てんかん薬を飲ませた上で生活の質の向上をしていくわけですから、薬を飲んで調子が悪いようでは困ります。その場合にはその子の発作や調子の悪いわけを知ったうえで獣医師が次の治療方法を考えていきます。
一般には月に1回以上の発作があった場合、初めての発作でも1日に何回か起こした場合(群発発作)、あるいはてんかん重積状態(発作が止まらない場合)になった場合にはすぐに治療を開始することになります。ただ、半年に1回あった発作が3カ月に1回、そして2カ月に1回と頻度が増えているようならば治療を開始することをお勧めします。
一番やってはいけないことは、抗てんかん薬をあなたの判断で中止することです。今まで抑えていた電気的ショートが一気に広がってしまい、興奮していしまう場合があるからです。こうなると今までの薬では抑えきれなかったり、あるいはそのまま死んでしまう場合もあります。
獣医師の指示がない限り途中で薬を止めないでくださいね。
発作はすぐには治まらないかもしれません。発作があった日だけでも構いませんので日時やその時の状況をメモしてください。また、おやつとかつまみ食いをした場合にも記してください。これは食事などが発作を誘発する要因となる場合があるからです。
発作がどこで起こるかという問題を考えた場合、やはり危険なのは遊泳している時でしょう。いわゆる溺死を起こす機会がまったく無いわけではないということを頭に入れておいてください。あとは、今までどおり運動もやってくれて問題ありません。
これは薬の種類・どれくらいの期間飲んでいるのか・どの程度の血中濃度なのか、あるいは他に原因があるのかという現状がわからないと答えることができません。
獣医師は発作が治まらないてんかんの場合に、もう一度原点に帰った診察をする必要があります。まず考えなければならないのが非てんかん性発作ではないかということです。つまりてんかんでは無い病気で発作を起こしているということです。
このように薬をやっていても発作が起こる場合には、実際にてんかん自体が進行性で薬の効きにくい発作である場合(真の難治性てんかん)と実はてんかんでなかったとか薬の量が少ないとか動物が薬を飲んでいなかったりとか薬を忘れていたなどという場合(みせかけの難治てんかん)の二つがあります。 →★【難治てんかん】
よって、獣医師はどちらの難治てんかんなのかを判断し、みせかけだった場合にはそれを正す方向でいくはずです。また、真の難治てんかんの場合は現状維持か、あるいは外科的治療法、さらには東洋医学を考える必要があるでしょう。
このてんかんについては以下の文献を参考に当院における臨床データも使用しています。