獣医師によるコラム
「たくさんお水を飲む、たくさんおしっこが出る」は病気のサイン!?
こんにちは、夏の暑さが日ごと増していく今日この頃ですね。私達ヒトでもそうですが、動物は暑くなるとのどが渇き、よくお水を飲むようになります。これは、体が水分の不足を感知して「のどの渇き」を催す正常な反応です。つまり、のどが渇くということは、脱水への防御反応と言えます。
一方で、何らかの病気にかかったワンちゃん・ネコちゃんは、「多飲多尿(たいんたにょう)」という、病的にたくさんお水を飲みたがる症状を示すことがあります。今回は、この「多飲多尿」という症状についてお話したいと思います。
①飲む水と出る水の調節
飲んだお水は、必要量が体内に蓄積され、余分な量や熱の調節、老廃物の排出のために汗や吐く息、そして便や尿として体外へ排出されます。飲むお水と出ていくお水の量は、主に脳と腎臓の働きによりバランスがとられています。
例えば、体からお水が大量に失われたり、塩分を大量に摂取したりすると、血液中のナトリウムなどのイオンバランスが変化します。この変化を脳が感知し、尿を作っている腎臓がお水を引き戻す(これを“再吸収”と言います)ための命令(抗利尿ホルモン)を出します。また、「渇き」を刺激し飲水量を増加させます。さらに腎臓自身もホルモンを出し、体内で水分を保つ反応が起こります。逆に、体中にお水が大量に存在する場合は、腎臓が尿へとお水をどんどん排出します。
一方で、何らかの病気にかかったワンちゃん・ネコちゃんは、「多飲多尿(たいんたにょう)」という、病的にたくさんお水を飲みたがる症状を示すことがあります。今回は、この「多飲多尿」という症状についてお話したいと思います。
①飲む水と出る水の調節
飲んだお水は、必要量が体内に蓄積され、余分な量や熱の調節、老廃物の排出のために汗や吐く息、そして便や尿として体外へ排出されます。飲むお水と出ていくお水の量は、主に脳と腎臓の働きによりバランスがとられています。
例えば、体からお水が大量に失われたり、塩分を大量に摂取したりすると、血液中のナトリウムなどのイオンバランスが変化します。この変化を脳が感知し、尿を作っている腎臓がお水を引き戻す(これを“再吸収”と言います)ための命令(抗利尿ホルモン)を出します。また、「渇き」を刺激し飲水量を増加させます。さらに腎臓自身もホルモンを出し、体内で水分を保つ反応が起こります。逆に、体中にお水が大量に存在する場合は、腎臓が尿へとお水をどんどん排出します。
②「多飲多尿」とは?
健康な動物では、1日に体重1kg当たり50~60mlの水を飲み、20~40mlの尿を排出します。
例えば、個体差もありますが、体重約10kgのワンちゃんですと、1日に500mlのペットボトル1~1.5本ぶんのお水を飲み、1本よりやや少ないくらいの尿を排出する計算になります。もちろん、その子の体格や気温、運動の状況によってこれらの量は変化することがあります。
病的にたくさんのお水を飲みたくさんの尿が出る状態を「多飲多尿」と言いますが、具体的に「病的にたくさん」には次のような基準があります。
健康な動物では、1日に体重1kg当たり50~60mlの水を飲み、20~40mlの尿を排出します。
例えば、個体差もありますが、体重約10kgのワンちゃんですと、1日に500mlのペットボトル1~1.5本ぶんのお水を飲み、1本よりやや少ないくらいの尿を排出する計算になります。もちろん、その子の体格や気温、運動の状況によってこれらの量は変化することがあります。
病的にたくさんのお水を飲みたくさんの尿が出る状態を「多飲多尿」と言いますが、具体的に「病的にたくさん」には次のような基準があります。
③「多飲多尿」が起こるしくみ
先ほどご説明したように、飲む水と尿へ出る水の量は、主に脳と腎臓の働きにより調節されています。ですから、脳あるいは腎臓の機能のいずれかが障害されると、飲む水と出る水のバランスが崩れてくるのです。したがって「多飲多尿」とは、ある病気と必ずしも1対1で現れる症状ではなく、その背景に脳や腎臓の機能に関係する様々な病気が隠れている可能性があります。言い換えれば、様々な病気の症状として多飲多尿が現れるということになります。
実は、多飲多尿が現れる病気の多くは、「たくさんお水を飲むため尿が出る」よりも「たくさん尿が出るためにお水を欲しがる」場合のほうが多いと言われています。
では、「多飲多尿」を示す病気の代表例とそのメカニズムをご説明します。
1.腎臓病
腎臓の主な機能は、血液中の老廃物を体の外に排出するために尿を作ることですが、その過程で体内に必要な水分や塩分を引き戻す「再吸収」を行います。この再吸収は、腎臓の尿細管や集合管と呼ばれる部分で行われますが、この部分が壊れてしまうと尿中にどんどん水分が失われ「多尿」が起こります。この水分の喪失に反応して「多飲」が起こります。
2.糖尿病
インスリン*というホルモンが不足するために、血液中の過剰な糖分が尿中に漏れでてしまう病気です。腎臓内では、尿に糖分が多く含まれるために再吸収がうまく行われず、腎臓は結果として水分の回収に失敗し「多尿」が起こり、次いで「多飲」が起こります。
*インスリン…細胞の中にそのエネルギーとなる糖分を移動させるホルモン
3.副腎皮質機能亢進症
副腎皮質という臓器で作られるステロイドホルモン(グルココルチコイド)が過剰になり、このホルモンが水分の調節に係る脳の働きを鈍らせ、また腎臓では脳からの命令を妨げ「多尿」が起こります。こうして現れる多飲多尿の他、この病気では血液中のコレステロール濃度が上昇したり、全身の脱毛が見られたり、免疫力の低下が見られたりと多様な症状が現れます。
4.甲状腺機能亢進症
これは特にネコちゃんで多く、甲状腺という組織から過剰にホルモンが産生される病気です。このホルモンが、尿中の塩分を増加させることや体内の熱産生に影響することは知られていますが、多飲多尿を示す原因は明らかになっていません。この病気にかかったネコちゃんは、多飲多尿のほか、多食、脱毛、心不全症状を示すことがあります。
5.子宮蓄膿症
避妊手術をしていない中~高齢のワンちゃんに多い病気です。特に発情が終わった頃に、子宮の中に細菌感染が起こり、膿が貯まります。この病気では、細菌の出す毒素が、腎臓で脳からの命令(抗利尿ホルモン)を妨げるために「多尿」が起こり、次いで「多飲」が起こります。この病気は、命に直接関わる重篤な状態であるため、一般に早期の手術が求められます。
6.尿崩症(にょうほうしょう)
腎臓に対し脳が水を再吸収させる命令をうまく出せない「中枢性尿崩症」と、脳からの命令に腎臓がうまく反応できない「腎性尿崩症」の2つに分けられます。原因は脳あるいは腎臓にありますが、どちらも腎臓が水の再吸収に失敗することで「多尿」が起こり、次いで「多飲」が起こります。
中枢性ですと脳の腫瘍が原因となることが多く、腎性ですと生まれつきであったり他の病気によるものであったりしますが、いずれにせよ診断が困難です。
腎性尿崩症の原因の一つに、高カルシウム血症があります。過剰なカルシウムは、脳から出された抗利尿ホルモンの働きを腎臓で妨げ、多尿を起こします。高カルシウム血症はごはん中のカルシウム量の増加程度では起こらず、その最も一般的な原因はリンパ腫、アポクリン腺癌といった悪性腫瘍と考えられています。
先ほどご説明したように、飲む水と尿へ出る水の量は、主に脳と腎臓の働きにより調節されています。ですから、脳あるいは腎臓の機能のいずれかが障害されると、飲む水と出る水のバランスが崩れてくるのです。したがって「多飲多尿」とは、ある病気と必ずしも1対1で現れる症状ではなく、その背景に脳や腎臓の機能に関係する様々な病気が隠れている可能性があります。言い換えれば、様々な病気の症状として多飲多尿が現れるということになります。
実は、多飲多尿が現れる病気の多くは、「たくさんお水を飲むため尿が出る」よりも「たくさん尿が出るためにお水を欲しがる」場合のほうが多いと言われています。
では、「多飲多尿」を示す病気の代表例とそのメカニズムをご説明します。
1.腎臓病
腎臓の主な機能は、血液中の老廃物を体の外に排出するために尿を作ることですが、その過程で体内に必要な水分や塩分を引き戻す「再吸収」を行います。この再吸収は、腎臓の尿細管や集合管と呼ばれる部分で行われますが、この部分が壊れてしまうと尿中にどんどん水分が失われ「多尿」が起こります。この水分の喪失に反応して「多飲」が起こります。
2.糖尿病
インスリン*というホルモンが不足するために、血液中の過剰な糖分が尿中に漏れでてしまう病気です。腎臓内では、尿に糖分が多く含まれるために再吸収がうまく行われず、腎臓は結果として水分の回収に失敗し「多尿」が起こり、次いで「多飲」が起こります。
*インスリン…細胞の中にそのエネルギーとなる糖分を移動させるホルモン
3.副腎皮質機能亢進症
副腎皮質という臓器で作られるステロイドホルモン(グルココルチコイド)が過剰になり、このホルモンが水分の調節に係る脳の働きを鈍らせ、また腎臓では脳からの命令を妨げ「多尿」が起こります。こうして現れる多飲多尿の他、この病気では血液中のコレステロール濃度が上昇したり、全身の脱毛が見られたり、免疫力の低下が見られたりと多様な症状が現れます。
4.甲状腺機能亢進症
これは特にネコちゃんで多く、甲状腺という組織から過剰にホルモンが産生される病気です。このホルモンが、尿中の塩分を増加させることや体内の熱産生に影響することは知られていますが、多飲多尿を示す原因は明らかになっていません。この病気にかかったネコちゃんは、多飲多尿のほか、多食、脱毛、心不全症状を示すことがあります。
5.子宮蓄膿症
避妊手術をしていない中~高齢のワンちゃんに多い病気です。特に発情が終わった頃に、子宮の中に細菌感染が起こり、膿が貯まります。この病気では、細菌の出す毒素が、腎臓で脳からの命令(抗利尿ホルモン)を妨げるために「多尿」が起こり、次いで「多飲」が起こります。この病気は、命に直接関わる重篤な状態であるため、一般に早期の手術が求められます。
6.尿崩症(にょうほうしょう)
腎臓に対し脳が水を再吸収させる命令をうまく出せない「中枢性尿崩症」と、脳からの命令に腎臓がうまく反応できない「腎性尿崩症」の2つに分けられます。原因は脳あるいは腎臓にありますが、どちらも腎臓が水の再吸収に失敗することで「多尿」が起こり、次いで「多飲」が起こります。
中枢性ですと脳の腫瘍が原因となることが多く、腎性ですと生まれつきであったり他の病気によるものであったりしますが、いずれにせよ診断が困難です。
腎性尿崩症の原因の一つに、高カルシウム血症があります。過剰なカルシウムは、脳から出された抗利尿ホルモンの働きを腎臓で妨げ、多尿を起こします。高カルシウム血症はごはん中のカルシウム量の増加程度では起こらず、その最も一般的な原因はリンパ腫、アポクリン腺癌といった悪性腫瘍と考えられています。
これら以外にも様々な病気で、多飲多尿は起こります。
ワンちゃんでは一般的な原因として以下のような病気が挙げられます。
・慢性腎臓病
・子宮蓄膿症
・糖尿病
・副腎皮質機能亢進症
・高カルシウム血症
・腎盂腎炎
また、ネコちゃんでは以下のような病気が挙げられます。
・慢性腎臓病
・甲状腺機能亢進症
・糖尿病
・尿路閉塞の解除
ワンちゃんでは一般的な原因として以下のような病気が挙げられます。
・慢性腎臓病
・子宮蓄膿症
・糖尿病
・副腎皮質機能亢進症
・高カルシウム血症
・腎盂腎炎
また、ネコちゃんでは以下のような病気が挙げられます。
・慢性腎臓病
・甲状腺機能亢進症
・糖尿病
・尿路閉塞の解除
④「多飲多尿」が心配な時は?
実際に、ワンちゃんやネコちゃんの飲水量や尿量をご自宅で正確に測定することは、おそらく難しいのではないかと思われます。
まずは、「以前にも増して水を飲む、おしっこをする」という印象があるかどうかが重要です。特に尿に関しては、「色が薄くなった、何度もトイレに行くようになった」などは尿中のお水が増えている可能性が高いです。とは言え、最近は気温も高く、お水をよく飲むようになるというのは珍しくもないと思います。しかし、体が水分を求めて水を飲んでいるのに、それが大量に尿中に出ているのは、やはり異常です。脱水に反応してお水をよく飲むならば、尿は濃くなるはずです。見た目の濃さも重要ですが、正確に「尿の濃さ」を判定するためには病院での尿検査が必要となります。
また、多飲多尿を示す動物で注意しなければならないのは、飲水量を制限しないことです。確かに、咳や吐き気などと同じく多飲多尿は症状の1つですが、単純に止めれば良いというものではありません。先ほど申し上げましたように、多くは「たくさん尿が出るためお水を欲しがる」状態であるため、多飲多尿を示す子の飲水量を制限すると、正常な子に比べ脱水症状が起きやすくなります。
ご覧いただいた通り、「多飲多尿」は注意して見ないと気が付かれず、判断が難しい症状だと思いますが、何らかの病気が隠れている可能性があります。皆様のご家族で、飲水量や尿量が増えてきたという印象がある場合は、早期の血液検査、尿検査をお勧めします。またご来院までの間、お水を欠かさないようにしてあげてください。
もちろん、健康なワンちゃん、ネコちゃんでも熱中症に注意して、お水を十分に飲ませてあげて暑い夏を乗り越えましょう。
実際に、ワンちゃんやネコちゃんの飲水量や尿量をご自宅で正確に測定することは、おそらく難しいのではないかと思われます。
まずは、「以前にも増して水を飲む、おしっこをする」という印象があるかどうかが重要です。特に尿に関しては、「色が薄くなった、何度もトイレに行くようになった」などは尿中のお水が増えている可能性が高いです。とは言え、最近は気温も高く、お水をよく飲むようになるというのは珍しくもないと思います。しかし、体が水分を求めて水を飲んでいるのに、それが大量に尿中に出ているのは、やはり異常です。脱水に反応してお水をよく飲むならば、尿は濃くなるはずです。見た目の濃さも重要ですが、正確に「尿の濃さ」を判定するためには病院での尿検査が必要となります。
また、多飲多尿を示す動物で注意しなければならないのは、飲水量を制限しないことです。確かに、咳や吐き気などと同じく多飲多尿は症状の1つですが、単純に止めれば良いというものではありません。先ほど申し上げましたように、多くは「たくさん尿が出るためお水を欲しがる」状態であるため、多飲多尿を示す子の飲水量を制限すると、正常な子に比べ脱水症状が起きやすくなります。
ご覧いただいた通り、「多飲多尿」は注意して見ないと気が付かれず、判断が難しい症状だと思いますが、何らかの病気が隠れている可能性があります。皆様のご家族で、飲水量や尿量が増えてきたという印象がある場合は、早期の血液検査、尿検査をお勧めします。またご来院までの間、お水を欠かさないようにしてあげてください。
もちろん、健康なワンちゃん、ネコちゃんでも熱中症に注意して、お水を十分に飲ませてあげて暑い夏を乗り越えましょう。