渡辺動物病院

獣医師によるコラム

おしっこがでない?! その2

以前にネコちゃんのおしっこが出ない原因となる下部尿路疾患(FLUTD)についてのコラムを掲載しました。
今回はワンちゃんでおしっこが出ない原因となり得る前立腺肥大についてお話します。

・尿の色、臭いがいつもと違う
・尿に勢いがなくポタポタとしか出てこない、いつの間にか尿が漏れている
・尿がまだ出そうなのにすぐ止まってしまいおなかに力が入っている
・排尿するときや排便するときに痛がる
・細い便がでる


お家のワンちゃんにこんな症状が見られたことはありませんか?
ワンちゃんが高齢の雄でこんな症状がでたら、もしかすると前立腺に原因があるかもしれません。


<前立腺とは?>
前立腺は雄のワンちゃんの膀胱の少し後ろの尿道を取り囲むように存在します。
これは副生殖器とよばれ、精液の分泌に関係する臓器で、雄だけにしかありません。


<前立腺肥大とは?>

この前立腺が大きくなってしまった状態を前立腺肥大と呼びます。
通常、前立腺の肥大は前立腺の良性の過形成で加齢とともにみられる変化のひとつです。これは良性の変化ではありますが、サイズが大きくなりすぎると体調不良として症状があらわれることがあります。また、これにともなって前立腺の組織が壊れ、嚢胞という袋状の構造を形成することがあります。
前立腺肥大は精巣から分泌される雄性ホルモンと雌性ホルモンのバランスが乱れることによって起こることが知られており、去勢手術をしていない高齢の雄でみられることが多い疾患です。
よくみられる症状として血尿、排尿困難や排便困難がありますが、これらは必ず観察される訳ではなく時には何となく元気がない、動くのを嫌がるといった症状のみのこともあります。


前立腺が肥大するとその解剖学的な位置が尿道と隣り合っていることからもわかるように、尿道を圧迫してしまい、尿が出にくくなることがあります。また、これが直腸を圧迫することで便が出にくくなったり、細い便をするようになることもあります。
また、前立腺は細菌感染を起こしやすく肥大に感染が伴う場合には、発熱や疼痛がみられることもあります。その結果、ワンちゃんは痛みのため下半身を触られるのを嫌がったり、動くのを嫌ったり、歩き方に異常がみられることもあります。


<診断>

腹部レントゲン検査、直腸検査による触診、超音波検査、尿検査、前立腺液の検査などにより総合的に診断します。

良性変化による肥大の他にも、腫瘍による肥大や、肥大にともなった感染が存在することがあるため、検査でしっかりと状況を把握する必要があります。



<治療>

1.内科療法
抗アルドステロン薬と呼ばれる雄性ホルモンの作用を弱める薬を内服することで肥大した前立腺をもとの大きさに戻します。しかし、内科治療を選択した場合、内服薬で症状が治まっても薬をやめるとまた同様の症状が再発することがあります。

2.外科療法
去勢手術。去勢の手術を行うことで数週間以内に前立腺の大きさに変化があらわれます。外科治療を選択することの利点は内科治療のときと異なり再発するリスクがないことです。
ただし、前立腺の肥大がホルモンによるものでなく、腫瘍などの別の要因によるものであった場合はこの限りではありません。


今回は前立腺の加齢にともなう良性の肥大についてのお話をしました。
この他にも前立腺が腫瘍化した場合や感染を起こしている場合にも似たような症状がでることがあります。原因によっては治療法も異なるため気になる症状がある場合は早めに病院へご相談ください。
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