渡辺動物病院

獣医師によるコラム

ネコちゃんの肥大型心筋症

 「うちのおじいちゃんが心臓病でね・・・」「うちの犬が心臓病で毎日お薬飲んでいるの」なんていう話は、愛犬家の中でよく聞く会話ですよね。しかし、「うちの猫が心臓病で通院しているの」という話は、ほとんどの方が耳にしたことがないと思いますが、いかがでしょうか。

 では、ネコちゃんは心臓病にならないのでしょうか?
そんなことはありません!!ネコちゃんの心臓病は死因の上位を占めますし、発見されないまま亡くなった心臓病の子もいるでしょうから、恐らくもっともっと多いはずです。しかし、ヒトやワンちゃんのように咳などの症状を伴わないので、重篤な症状が発症するまで発見できないことがほとんどです。

そして、発見される際は、下記のような重篤な症状であることがほとんどです。
呼吸が苦しい
突然後ろ足が動かなくなっちゃった!!

ネコちゃんに最も多い心臓病が『肥大型心筋症』です。肥大型心筋症とは、簡単に言うと『心臓の壁が分厚くなって心臓が血液をうまく送り出せなくなる病気』です。
分厚くなった心臓の筋肉は、縮むのは得意でも、拡がるのが苦手になります。
図1bを見ると、血液を溜める斜線部分が、左の図1aよりも狭くなっていますね。
血液を溜められないということは、心臓が拍動した時に全身に送り出せる血液量が低下してしまいます。

この時点で、ヒトであれば「最近少し動くと動悸息切れがする」と訴えるところでしょう。しかしネコちゃんの場合、ご家族から見てもわからないのが普通です。注意深く観察すれば、うずくまって休むことが多くなったことに気づくかもしれません。

さらに進行すると・・・
血液が心臓の中で交通渋滞を起こし、心臓に辿り着けない血液が肺に溜まったり(肺水腫)、胸水が溜まります。
こうなると、突然の呼吸困難を起こし、命に直結します!!

また、心臓の中で血液の流れが滞っていると、そこで血液の塊(血栓)ができることがあります。心臓内で出来た血栓は血流に乗って全身へ流れて行き、血管が細くなる所(多いのは大動脈から両後ろ足に分かれる場所)に詰まります!!
血栓の詰まった部位に激しい痛みを伴うため、狂ったように鳴いたり暴れたりすることもあります。後ろ足の肉球は白くなり、ネコちゃんはふらついたり足を引きずるようになります。その状態が続くとやがては後ろ足が冷たくなり、麻痺して動かせなくなってしまいます。
早期発見のために・・・
【好発品種】
常染色体優性遺伝:メインクーン
家族内発生(遺伝性):アメリカン・ショートヘア,ラグドール
ただし、動物病院で遭遇する品種として最も多いのは「日本猫(雑種)」と言うのが実情です。

【発生年齢と性別】
多くのネコちゃんでは、5~7歳くらいで心臓病が見つかります。
性別の差として、実に80%以上が男の子で発生しています。


好発品種のネコちゃんは12カ月齢から

それ以外の品種のネコちゃんは4歳齢から

また全身麻酔をかける際には術前検査の一つとして

心臓の定期検査を行いましょう!!
【病院での検査】
猫ちゃんの心筋症の早期発見を遅らせる原因は、症状がわかりづらいことに加え、身体検査聴診、通常の血液検査では発見できないことが多いからです。
心筋症の発見には、心臓の超音波検査が必須となります。ただし、超音波検査のためには、少なくとも数分間、横に寝て動かずにいてもらう必要があります。じっとするのが苦手なネコちゃんには難しいかもしれません。その場合に有用な血液検査があります。

N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)
・何らかの原因で心臓の筋肉に負担がかかると作られ、血液中に放出される
・肥大型心筋症のネコちゃんの80%で上昇
・病気の進行と共に上昇

少量の血液で検査できるので、毎年行っている健康診断の血液検査時にこの項目を追加測定し、もしも高値を示した場合に超音波検査を受けることをお勧めします。

 以上のように、ネコちゃんの心臓病は早期発見が困難であり、発症するとネコちゃんの生活の質を著しく低下させ、生命に直結する重大な病気です。ご家族と獣医師が協力して早期発見に努めましょう。
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